企業の海洋保全貢献:サプライチェーンにおけるプラスチック削減の具体的なアプローチ
「海を守る暮らしガイド」をご覧の皆様、海洋プラスチック問題への関心が高まり、個人の取り組みだけでなく、企業活動における責任も強く問われる時代となりました。特に、製品のライフサイクル全体に関わるサプライチェーンにおけるプラスチック削減は、海洋環境保護へ大きく貢献するだけでなく、企業の持続可能な成長にも不可欠な要素です。
この記事では、既に環境問題への基本的な意識を持ち、さらに事業活動を通じて貢献したいと考える方々に向けて、サプライチェーン全体でプラスチック使用量を効果的に削減するための具体的なアプローチと、その導入における考慮点について詳しく解説いたします。
サプライチェーン全体でプラスチック削減に取り組む意義
企業がサプライチェーンにおいてプラスチック削減に取り組むことは、多岐にわたるメリットをもたらします。
- 環境負荷の低減: 製品の企画から廃棄までの全工程でプラスチックの使用を見直すことで、海洋へのプラスチック流出リスクを低減し、生態系保護に貢献します。
- コスト効率の改善: 包装材の削減、リサイクル素材の活用、廃棄物処理費用の削減などにより、長期的な運営コストの効率化が期待できます。
- 企業価値の向上: 環境・社会・ガバナンス(ESG)投資の観点からも企業評価が高まり、消費者や取引先からの信頼獲得、ブランディング強化に繋がります。
- 規制への対応とリスク回避: 各国で強化されるプラスチック規制への事前対応となり、将来的なビジネスリスクを低減します。
具体的なプラスチック削減アプローチ
サプライチェーンは、「調達」「製造・加工」「物流・輸送」「販売・提供」「廃棄・リサイクル」の各段階に細分化されます。それぞれの段階で具体的な削減策を検討することが重要です。
1. 調達段階での見直し
製品の素材や部品、梱包材を調達する段階で、プラスチック使用量削減に繋がる選択をします。
- リサイクル素材や再生可能素材の活用: プラスチックのバージン素材(新規に製造されたプラスチック)を減らすため、再生プラスチック、バイオマスプラスチック、または紙や木材、金属などの代替素材への切り替えを検討します。
- 供給業者との連携強化: 供給業者に対し、プラスチックフリーな梱包や輸送を依頼する協定を結びます。例えば、部品の運搬に繰り返し使用できる通い箱(リターナブルコンテナ)やパレットの導入を共同で推進します。
- 環境認証の活用: サプライヤー選定の基準に、環境マネジメントシステム(ISO 14001など)や特定の環境ラベル(FSC認証の紙など)を持つ企業の優先を組み込みます。
2. 製造・加工段階での改善
製品の製造工程におけるプラスチック廃棄物を最小限に抑え、効率的な使用を追求します。
- 工程内廃棄物の削減: 製造過程で発生する不良品や端材の量を減らすための工程改善、またはこれらのプラスチック廃棄物の社内リサイクル・再利用システムを構築します。
- 製品設計の最適化: 製品自体のプラスチック使用量を削減できるよう、軽量化や部品点数の削減、一体成型などの設計変更を検討します。
- プラスチック資材の効率的利用: 製造ラインで使用するプラスチックフィルムやラップなどの資材を必要最小限に抑え、代替素材への切り替えを検討します。
3. 物流・輸送段階での工夫
製品の保管、梱包、輸送におけるプラスチック使用量を見直します。
- 過剰包装の是正: 製品を保護する目的を超えた過剰なプラスチック包装を見直し、必要最小限のシンプルな包装へと変更します。
- 繰り返し利用可能な梱包材の導入: 発泡スチロールなどの使い捨て緩衝材の代わりに、紙製の緩衝材や、繰り返し利用可能なエアクッション、リターナブルコンテナ、折りたたみコンテナなどへ切り替えます。
- 輸送効率の最適化: 輸送時の積載効率を向上させることで、一度に運搬できる製品量を増やし、結果として全体の梱包材使用量を削減します。
4. 販売・提供段階での戦略
消費者に製品が届く最終段階でも、プラスチック削減に貢献できる機会があります。
- プラスチックフリー製品の展開: 製品そのものや提供方法をプラスチックフリーにする試みです。例えば、量り売り方式の導入、洗剤やシャンプーの詰め替えステーション設置などが挙げられます。
- エコフレンドリーな包装への切り替え: 商品の個包装やショッピングバッグを、紙製や生分解性素材、リサイクル可能な素材に切り替えます。
- 循環型モデルの構築: 使用済み製品や容器を企業が回収し、再利用またはリサイクルするシステム(例:化粧品容器の回収プログラム、飲料ボトルのデポジット制)を構築します。
5. 廃棄・リサイクル段階への配慮
製品が使用された後の処理を考慮することで、サプライチェーン全体の持続可能性を高めます。
- リサイクルしやすい製品設計: 製品を設計する段階で、分解しやすく、単一素材で作られているなど、リサイクルしやすい構造にすることを意識します。
- 消費者への情報提供: 製品のリサイクル方法や廃棄時の分別に関する正確な情報を消費者に提供し、適切な処理を促します。
- リサイクル技術への投資と連携: マテリアルリサイクル(物理的な加工による再生)やケミカルリサイクル(化学的な分解による再生)技術への投資、またはこれら技術を持つ企業との連携を検討します。
導入における課題と克服策
これらのアプローチを導入する際には、いくつかの課題に直面する可能性があります。
- 初期投資とコスト増: 新しい素材やシステムの導入には初期費用がかかる場合があります。しかし、長期的な視点で見れば、廃棄物処理費用の削減やブランド価値向上による売上増に繋がる可能性を評価することが重要です。政府や自治体の補助金・助成金制度の活用も検討できます。
- サプライヤーとの協力: サプライチェーン全体の変更には、多くの取引先との協力が不可欠です。明確なガイドラインの提示、共同での研修実施、成功事例の共有などを通じて、理解と協力を促進します。
- 品質・機能性の確保: 代替素材への切り替え時には、製品の品質や機能性が損なわれないか、十分なテストが必要です。専門家との連携や、サプライヤーとの密な情報交換が成功の鍵となります。
まとめ
サプライチェーンにおけるプラスチック削減は、企業が海洋環境保全に貢献するための極めて重要な手段です。それは単なる環境活動に留まらず、コスト削減、企業価値向上、リスクマネジメントといった多角的な事業メリットをもたらします。
導入には課題も伴いますが、各段階での具体的なアプローチを体系的に検討し、サプライヤーや消費者との連携を通じて、持続可能なビジネスモデルを構築することが可能です。ぜひ、貴社の事業活動におけるプラスチック削減の可能性を改めて見つめ直し、海洋保全への貢献をさらに一歩深めていただければ幸いです。