海を守る暮らしガイド

見落とされがちなマイクロプラスチック源:洗剤・化粧品対策の現状と実践

Tags: マイクロプラスチック, 化粧品, 洗剤, 海洋保全, サステナビリティ, 事業

はじめに:見落とされがちな海洋汚染源への視点

私たちの日常生活に欠かせない洗剤や化粧品の中には、微細なプラスチック粒子、いわゆるマイクロプラスチックが含まれている製品が存在します。これらの粒子は、使用後に排水として流され、下水処理施設を通過して最終的に海へと流れ込むことが懸念されています。海洋プラスチック問題が広く認識される中で、大型のプラスチックごみだけでなく、こうした見落とされがちなマイクロプラスチック源への対策も、海洋環境保全においては極めて重要です。

この記事では、洗剤や化粧品に含まれるマイクロプラスチック(特にマイクロビーズ)がなぜ問題なのか、そして、この問題に対して個人はどのような製品選びができるのか、さらに一歩進んで、事業者はどのように自社の活動を通じてこの問題に取り組むことができるのかについて、詳しく解説いたします。

マイクロプラスチックビーズとは何か、なぜ問題なのか

洗剤や化粧品に含まれるマイクロプラスチックの多くは、「マイクロビーズ」と呼ばれる、通常5mm以下の微細なプラスチック粒子です。スクラブ剤として古い角質を取り除く洗顔料やボディソープ、研磨剤として歯垢を除去する歯磨き粉、あるいは増量剤や安定剤として利用される合成洗剤などに使用されてきました。

これらのマイクロビーズが海洋環境において問題視される主な理由は以下の通りです。

  1. 下水処理施設での除去が困難: マイクロビーズは非常に小さいため、一般的な下水処理施設のフィルターをすり抜けてしまうことが多いとされています。
  2. 海洋生態系への影響: 海に流れ込んだマイクロビーズは分解されにくく、海洋を漂います。これをプランクトンや魚、貝などの海洋生物が誤って摂取する可能性があります。プラスチックそのものの影響に加え、環境中の汚染物質を吸着しやすい性質を持つため、食物連鎖を通じてより大きな生物に蓄積される懸念も指摘されています。
  3. 回収が不可能: 一度海に流出したマイクロビーズを回収することは、現在の技術ではほぼ不可能です。

このように、洗剤や化粧品由来のマイクロプラスチックは、その微細さゆえに「見えない汚染源」として、持続的に海洋環境に負荷をかけ続けてしまう特性を持っています。

個人ができる対策:賢い製品選びのポイント

環境への負荷を減らしたいと考える個人にとって、洗剤や化粧品を選ぶ際に少し意識するだけで、マイクロプラスチックの流出抑制に貢献することができます。

1. 成分表示を確認する

製品のパッケージに記載されている成分リストを確認することが第一歩です。マイクロビーズとして使用される可能性のある成分には、以下のようなものがあります(ただし、これらの成分が必ずしもマイクロビーズとして含まれるわけではありません。製品の形態や目的によって異なります)。

これらの成分がリストの上位に記載されている場合、比較的高濃度で含まれている可能性があります。特にスクラブ製品などで「ポリエチレン」「ポリプロピレン」といった成分が見られる場合は、マイクロビーズの可能性が高いと考えられます。

2. 「マイクロプラスチックフリー」表示や認証を参考にする

環境問題への関心の高まりとともに、「マイクロプラスチックフリー」や「マイクロビーズ不使用」といった表示を積極的に行うメーカーが増えています。また、特定の環境認証マークが付与されている製品は、より厳しい基準を満たしている場合が多いです。これらの表示や認証マークは、製品選びの信頼できる手がかりとなります。

3. 自然由来の代替品を選ぶ

マイクロプラスチックの代わりに、自然由来のスクラブ成分(例:アプリコットの種、クルミの殻、砂糖、塩、オートミール、こんにゃくスクラブなど)を使用した製品や、そもそも研磨剤や増量剤としてプラスチックを使用しない製品を選ぶことも有効です。例えば、固形石鹸は合成洗剤と比較してシンプルな成分構成であることが多く、液体洗剤に比べてプラスチック容器の使用量も減らせる場合があります。

事業者ができる対策:供給側からの貢献

事業者は、製品のライフサイクル全体に関わる立場として、より大きなスケールでマイクロプラスチック問題に取り組むことができます。単に規制に対応するだけでなく、 proactively (先行的に)取り組むことは、企業の信頼性向上やブランディングにも繋がります。

1. 原料調達の見直し

製品の製造に使用する原料を、意図的に添加されたマイクロプラスチックを含まないものに切り替えることが最も直接的な対策です。 - マイクロビーズの代替: スクラブ剤などとして使用している場合は、前述したような自然由来の代替成分や、生分解性の高い代替素材への切り替えを検討します。 - その他マイクロプラスチックの確認: 洗剤の増量剤や特定の機能性を持たせるために添加される可能性のあるマイクロプラスチックについても、サプライヤーと連携して使用状況を確認し、代替可能な原料を模索します。

2. 製品設計・開発における配慮

新しい製品を開発する際に、設計段階からマイクロプラスチックを使用しないことを基本方針とします。 - 成分選定基準の設定: 環境負荷低減の観点から、原料選定における明確な基準を設けます。 - 技術開発への投資: マイクロプラスチックを使用せずに同等以上の機能や品質を実現するための研究開発を行います。

3. サプライチェーン全体での連携

自社だけでなく、原料サプライヤー、製造委託先、販売パートナーといったサプライチェーン全体で問題意識を共有し、連携して対策を進めることが効果的です。サプライヤーに対してマイクロプラスチックフリーの原料供給を求めたり、共同で代替原料の開発に取り組んだりすることが考えられます。

4. 消費者への情報提供と啓発活動

自社製品がマイクロプラスチックフリーであることを分かりやすく表示したり、ウェブサイトやSNSを通じて、マイクロプラスチック問題の現状や、消費者ができることについての情報を積極的に発信したりします。消費者の意識向上を促すことは、市場全体の変化を後押しすることにも繋がります。

5. 従業員教育と意識向上

従業員一人ひとりがマイクロプラスチック問題の重要性を理解し、業務において環境負荷低減を意識できるように、定期的な研修や情報共有を行います。これは、製品開発や販売戦略における新たな視点やアイデアを生む土壌となります。

国内外の規制動向

世界的には、マイクロプラスチックビーズを配合した洗剤や化粧品の製造・販売を規制する動きが進んでいます。アメリカ、カナダ、イギリス、EUなどが既に規制を導入、あるいは導入を検討しています。日本においても、洗剤・化粧品業界団体が自主的な取り組みとしてマイクロビーズの使用廃止を進めています。

こうした規制や自主的な動きは、企業にとって製品開発やサプライチェーンを見直す機会となります。将来的には、マイクロビーズ以外の意図的に添加されるマイクロプラスチックや、製造過程で発生するマイクロプラスチックへの規制が議論される可能性も否定できません。事業者は、これらの動向を注視し、将来を見据えた対策を講じることが重要です。

まとめ:小さな粒子への配慮が大きな変化を呼ぶ

洗剤や化粧品に含まれるマイクロプラスチックは、その小ささゆえに見過ごされがちですが、海洋環境に与える影響は無視できません。この問題への対策は、持続可能な社会を実現するために、個人も事業者も主体的に取り組むべき課題です。

個人としては、製品を選ぶ際に成分表示を確認したり、自然由来の代替品を選択したりすることで、日々の買い物を通じて貢献できます。そして事業者にとっては、原料の見直し、製品設計、情報提供など、事業活動の様々な側面からマイクロプラスチック削減に貢献する機会があります。こうした取り組みは、環境負荷の低減だけでなく、企業の信頼性向上や新たなビジネスチャンスにも繋がり得ます。

私たち一人ひとりの小さな選択と、事業者の責任ある行動が積み重なることで、見えない汚染源であるマイクロプラスチックの海への流出を減らし、豊かな海洋環境を次世代に引き継ぐための一歩となります。